He said.

私小説です。

日常

キーンコーンカーンコーン


今日も終業を告げるベルが鳴った。


「まだ帰らんの?さっさと部活行こうや」


と、片山宏が彼に話し掛けてきた。


彼こと松川歩は、四国の香川県、高松市の中学校に通うどこにでもいそうな中学校3年生だ。


高松市と言っても、吸収合併のような形で、高松市になった小さな町に住んでいる。


町の基盤産業は、石材業で、町のシンボルは五剣山で、町のキャラクターは、かの那須与一をモデルにした、よいち君だ。


高松市街地へのアクセスは非常に良く、電車でも自家用車でも20分もあれば、香川県の県庁所在地であり、四国の玄関口である、サンポート高松へのアクセスが可能だ。


彼はそんなごくごく普通の街に生まれ育ち、

石材業を営む両親と二つ離れた兄の享という四人家族の中で育った。


部活は、当然のようにサッカー部を選んだ。

小2でサッカーを始めたのは、トヨタカップで観たプラティニや、ファン・バステン、ライカールト…等と言った名選手のplayに憧れを抱いたからだった。


当時の日本において、サッカーはただのマイナースポーツで、Jリーグも開幕しておらず、W杯出場など、夢のまた夢の話であった。


とりわけ、香川県においては、野球人気が高く、運動神経に秀でた同級生のほとんどは、野球部に入部する


かと思いきや、Jリーグ開幕による空前のサッカーブームが到来し、アメリカW杯アジア最終予選のドーハの悲劇を観た子供達は、


中学に入学すると、挙って、サッカー部の門を叩いた。一学年6クラスで一クラス40人のほぼ半数、120名の男子のうち、サッカー部の入部者は、50名に達した。


「まっちゃん、今日は部活来いよ」

片山宏が彼にそう話し掛けた。


「かっちゃん、どうせ人数揃わんし、今日は塾行くけん、帰るわ」


50名もいたサッカー部入部者は、たったの6名になっていた。


もちろん下級生には小さな頃から天才と地域にその名を轟かせていた平山拓海を筆頭に、

歩よりキック力に秀で、体力も勝る後輩がわんさかいた。


「まっちゃん、総体でスタメンで、出たくないんか」


キャプテンである片山は、身体能力では劣るものの、技術に秀でた歩を、活かす為に、それまでのサイドバックからボランチへのコンバートを顧問に進言したばかりであった。


「かっちゃん、ごめん。明日は顔出すけん、今日は帰るわ」


歩は1年の頃からすぐに頭角を現したものの、2年になると、後輩に後塵を拝し、ベンチを暖める日々が続いていた。


「もう3年か、勉強も大事やけど、サッカーに後悔を残したくない」


歩は、次の日から黙々と部活の練習に没頭するようになった。


当時、流行っていたこんな歌を口ずさみながら。


負けないように 枯れないように

笑って咲く花になろう

ふと自分に迷う時は

風を集めて空に放つよ 今

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